フリーランスとしてグラフィックデザインの仕事を請け負っています、chieです。
世の中のコンテンツはどんどんwebに移行していますが、それでも印刷が必要なシーンって結構ありますよね。
例えば名刺。チラシ。ダイレクトメール。
Tシャツとかオリジナルマグカップといった立体ノベルティーにも、デザインの「印刷」が必要です。
実際、ここ10年くらいでweb完結の安価な印刷サービスが増えて、個人でもいろいろな印刷が手軽にできるようになりました。
ただ一方で、一般人にとってまだちょっと敷居が高いのが「データ入稿」です。
印刷データってどうやってつくればいいのか、何に気をつけなければいけないのか。
入稿ガイドのサイトを見ても、専門用語が多くて素人にはわかりづらいのが実態だと思います。
なのでデータ入稿がよくわからないという声には今でもめちゃくちゃ共感します。
そこで今回は、初心者が印刷用のデータ入稿で最低限これだけ知っておけばなんとかなるという4つのポイントを、できるだけわかりやすく解説します。
データ入稿は初めてのときは怖いですが、一度できてしまえば後はもう同じ流れでOKなので、できるようになっておくと何かと便利です。
さらに、それでもどうしても不安という方に向けて、自分でデータ入稿せずに印刷発注する方法も最後に紹介します。
ぜひ参考にしてみてください!
それでも、この共通ルールさえ知っておけば残りの詳細はなんとかなると思います!
ポイント1:断裁ズレ(塗り足しと仕上がり位置)
プリンターでの一般的な印刷と違い、業務用の印刷では「大きめの紙にデザインを印刷して、余分な周囲の紙を断裁する」という方法が取られます。
このときに起こるのが断裁ズレです。
これによって、印刷範囲ギリギリに要素を配置しているとそれが断裁で切れてしまったり、逆に端まで印刷されてほしい要素に余白ができてしまうリスクが生じます。
実際の印刷範囲は「仕上がり位置」、外側へのズレを考慮した範囲は「塗り足し位置」といった用語で呼ばれることが多いです。
断裁ズレが3mmの場合、端まで印刷されてほしい要素は仕上がり位置より3mm外側まで伸ばし、逆に切れてほしくない要素は仕上がり位置から3mm内側に収める必要があります。
私の経験則では概ね3mmが多いですが、ときどき4mmのところもあります。
ポイント2:フォント(対応可能フォント/アウトライン化/フォントの埋め込み)
普段パソコンで何気なく使っているフォント(書体)ですが、世の中には膨大な数のフォントがあり、パソコンによって収納されているフォントは異なります。
つまり、印刷デザインに使ったフォントは自分のパソコンには収納されていたけど、印刷業者のパソコンには収納されていないという可能性もあるわけです。
これで起きるのが、印刷業者で文字化けが起き、自分が使ったフォントと違うフォントで印刷されてしまうケース。
フォントによってデザインの趣が変わるのはもちろん、サイズも異なるため、「その1」で解説した断裁ズレで文字要素が切れてしまう可能性もあります。
WordやPowerPointなどOfficeソフトでデータをつくる場合は、先に印刷業者の対応可能フォントを確認し、その中から自分も使えるフォントを選んでデータをつくると確実です。
印刷業者の対応フォントは各ウェブサイトの入稿ガイドで確認できます。
IllustratorなどAdobeソフトでデータをつくる場合も同様ですが、Adobeソフトの場合はより確実な方法が使えます。
それがアウトライン化です。
アウトライン化とは、Adobeソフト側でフォントの型を取り、フォントをオブジェクト化してしまう(フォント情報を消してしまう)機能のことです。
丸とか四角とか、図形と同じになると考えるとわかりやすいですね。
図形なので、印刷業者がそのフォントを持っていなくても問題なく印刷することができます。
ただ、一度アウトライン化してしまうと、その要素を再びフォントとして編集することはできません。
例えば「ありがとう」という平仮名表記を「有難う」と漢字表記に修正したくても、アウトライン化した後は直接その文字を編集できないため、同じフォント・同じ大きさでもう一度新しく文字要素を配置する必要があります。
なので、アウトライン化するのはデザインが固まって印刷入稿する直前の段階がおすすめです。
また、増刷などでの修正も見越して、アウトライン前のデータも保管しておくと安心です。
そしてさらにもう一つ、フォント問題を楽に解決する方法があります。
それがPDF入稿です。
印刷データをPDFにすることは、文字や画像などのレイアウト要素をすべて一括りにして、一枚絵にしてしまうようなものです。
PDF化する際に「フォントの埋め込み」を設定すれば、フォントデータがPDF内に保存され、印刷業者がそのフォントを持っていなくても印刷することができるようになります。
入稿データをPDF化する方法は各印刷業者のサイトに詳しく紹介されているので、そちらに従って進めれば簡単にPDF化できます。
アウトライン化はページ数が多いデータだとサイズが重くなるといったデメリットもあるのですが、名詞やチラシ、DMなど一般的な印刷物であればほぼ問題ないと思います。
ポイント3:画像(解像度/CMYKとRGB/リンクと埋め込み)
解像度
さて画像ですが、特に解像度についてはなかなか沼が深いです。
初心者がいきなり全部を理解しようとすると沼にはまって抜け出せなくなるので、ここでは最低限必要な知識だけを解説します。
解像度とは、ある一定のサイズにどれだけドット(点)が詰まっているかを表す数値(dpi)です。
布を引っ張ると網目が荒くなって薄く見えますよね。
画像もあれと同じで、小さな範囲にドットが多く詰まっているほど高画質で、ドットが少なくなるほど低画質になります。
低画質の画像を印刷すると、目が荒くてなんだかよくわからない状態になってしまうリスクがあります。
これを防ぐには、画像の解像度を適切にしておく必要があります。
適正解像度は印刷物のサイズや特性などによって変わってきますが、一般的に実寸サイズで350dpiと言われています。
(綺麗な写真押しのデザインでなければ、個人的には300dpiでも十分だと思います)
ここでちょっとややこしいのですが、実は解像度だけこの350dpiに合わせてもあまり意味がなく、画像の印刷サイズとセットで確認する必要があります。
たとえば、印刷する紙の上での画像サイズが5cm×5cmだとします。
そして、実際の画像データのサイズが1cm×1cmだったとします。
この場合、実際の画像データが適正解像度(350dpi)だったとしても、印刷データ上でサイズが5cm×5cmまで引き延ばされてしまうことになります。
最初に説明した通り、布は引っ張れば網目が荒くなります。
つまり、画像もサイズを引き伸ばすとその分解像度は下がってしまうのです。
あくまで、実際に印刷する紙の上でのサイズで適正解像度を持っている必要があります。
ここまで理解した上で、「じゃあ一体どうやって解像度を調整すればいいんだ」って話ですが、これもなかなか複雑なので、最もシンプルな方法を紹介します。
まず、自分で撮影した写真を使いたい場合は、とにかく撮影モードを「最高画質」に設定してください。
データが重くなるデメリットはありますが、「大は小を兼ねる」です。最も確実な方法です。
次に、ストックフォトサービス等の写真を使う場合は、表示されているピクセル(pixel)の数値を確認してください。
ストックフォトサービス「Aflo」のサイズ計算ページで、印刷で使いたいサイズから必要なピクセル数が簡単に算出できます。
5cm×5cmで350dpiの画像を使いたい場合、689pixel✕689pixel以上だったらOKということになります。
最後に、誰かからもらった画像などで解像度がわからない場合。
もしAdobeソフト「Photoshop」を持っているなら、Photoshopの機能を使って解像度の確認ができます。
↓こちらのサイトで方法がわかりやすく解説されています。
画像データの解像度の調べ方。Photoshopで本来の意味の解像度を確認。
ちなみにPhotoshopのフリー代替ソフト「GIMP」でも同様に確認が可能です。
PhotoshopやGIMPを使わずに確認したい場合は、対応ファイル形式やサイズに制限はありますが無料オンラインツールで確認することもできます。
ファイルをアップロードすると…
このように現状解像度とサイズ、さらに解像度別印刷サイズが表示されます。
印刷入稿データの場合は300dpiの数値を確認するとよいでしょう。
CMYKとRGB
これも沼が深いジャンルです。
例によって最低限のところだけ解説します。
CMYKとRGBの定義は話すと長くなるのですが、印刷データ入稿においてはCMYKが印刷用の色形式、RGBがパソコンモニター用の色形式だと理解しておけば十分です。
パソコンで見ていた写真をプリンターで印刷したときに、「なんだか色味が違うな」と感じたことはありませんか?
あれはRGB形式の画像が、プリンターで印刷されることでCMYK形式に無理矢理変わってしまうためです。
一般的な傾向として、RGBの画像をそのままプリンターで出力すると、元の画像よりくすんで見えることが多いです。
画像が重要なデザインの印刷物だと、パソコンのモニターで見ていたときは鮮やかだったのに、実際印刷された物がくすんでしまってガッカリ…というのは結構よくある話です。
これを防ぐには、パソコンでデータをつくる段階から画像をCMYKにしてしまうという方法があります。
パソコンモニター用の色形式はあくまでRGBなんですが、印刷データ作成用に仮にCMYKの色味をモニター表示できる機能があるんです。
これを使えば、少なくともモニター上と印刷後での色味のギャップはかなり少なくなります。
ただしこの機能はPhotoshopなどの専用ソフトで細かく色調補正をしながら使うもので、初心者にはややハードルが高いかもしれません。
(入稿ルールでリンク画像は必ずCMYKというルールがある場合は、入稿ルールを守る上では有効です)
画像にこだわった印刷物でなければ、多少の色くすみは許容して、RGBのままデータをつくるのも悪くないと思います。
正直、小さい画像が少し入っているくらいの印刷物であればくすみはそこまで気になりません。
一方、「Photoshopは使えないけど画像の色味にはこだわりたい」という場合は、画像の変換だけ専門業者に依頼したり、RGB印刷に対応している印刷業者を使う方法があります。
スキルマーケット「ココナラ」で出品されているレタッチサービス
リンクと埋め込み
WordやPowerPointなどOfficeソフトでデータをつくる場合は、画像はレイアウト上に配置するだけでOKですが、Illustratorなど専用ソフトでつくる場合は注意が必要な点があります。
Illustratorのレイアウト上に画像を配置すると、画像は印刷データに対して「リンク」された状態になります。
画像は印刷データ上に存在しているわけではなく、どこか別の場所に存在していて、そこから印刷データ上に投影されているといったイメージですね。
この場合、印刷データ上に画像があっても、別の場所にある本体データを削除してしまうと印刷データ上の画像も一緒に消えてしまいます。
投影元が消えれば投影もなくなるというわけです。
これが一般的に「画像のリンク切れ」と呼ばれる現象です。
これで何が起こるかというと、自分のパソコンではリンクがつながっていて無事表示されていた画像が、印刷業者のパソコンではリンク切れになり、印刷されなくなってしまうんです。
これを防ぐには、印刷業者に対してIllustratorのファイルだけでなく、リンクしている画像の本体データも一緒に入稿することが必要でです。
もう一つの方法として、リンクしている画像を印刷データ上にすべて埋め込んでしまうこともできます。
「フォント」の項目で解説した「アウトライン化」や「PDFへの埋め込み」と似た方法です。
ページ数や画像数が多かったり、画像が高解像度だとデータのサイズが重くなりますが、名詞やチラシ、DMなど一般的な印刷物であればほぼ問題ないと思います。
その4:印刷データのカラーモード
画像の項目で印刷用の色形式はCMYKだと解説しましたが、これは画像だけでなく印刷データでも同様です。
WordやPowerPointなどOfficeソフトのデータの場合は印刷業者でCMYK変換が行われますが、Illustratorなど専用ソフトでは自分で設定して入稿する必要があります。
方法は簡単で、新規ドキュメントを作成するときにカラーモードをCMYKにすればOK。(参考サイト)
また、フルカラーではなくモノクロで印刷したい場合は、CMYKのKのみを使うか、グレースケールを使ってデータをつくる方法が一般的です。(参考サイト)
このあたりは一つひとつ調べて設定していく必要がありますが、初心者は印刷業者提供のテンプレートをダウンロードして使うのがおすすめです。
テンプレートにはそういった細かい要素が既にすべて入っています。
結局、入稿しなきゃいけないデータって何?
印刷業者に入稿するデータはフルセットで以下のようになります。
- レイアウトデータ(Illustrator/Indesign/Photoshop/各種Officeファイルなど)
- フォントデータ
- 画像データ
- 出力見本(PDFなど)
(特色を使っている場合は特色チップとか、状況によって他に必要な物も出てきますが、基本的には上記4点です)
フォントの項目で紹介した「アウトライン化」や「PDF入稿」をすれば、フォントデータは入稿不要になります。
また、「画像の埋め込み」をすれば画像データも不要になります。
出力見本PDFは、web入稿では求められない場合も多いです。
出力見本PDFを入稿する理由は、レイアウトデータにリンク切れやフォント漏れなどの不備があった場合に本来のデザインと異なる状態で印刷されてしまうので、自分のパソコンから正しく印刷(PDF化)されたものを見本として渡すことで、印刷業者さんに「本来のデザインとちゃんと合っているかどうか」を確認してもらえる(かもしれない)という意図です。
ただ、web経由の簡易入稿の場合は印刷業者は出力見本の確認までは請け負ってないことが多いと思います。
あと、レイアウトデータは基本アウトライン化しますが、念の為アウトライン前のデータも渡すようにしています。
自分でデータ入稿しなくていい方法もあります
印刷データ入稿に最低限必要な4つのポイントを解説してきましたが、それでも「やっぱり自分でやるのは大変…」と感じる人もいると思います。
その感想は間違ってないです。
実際、自分でやるにもプロに任せるのも、どちらにもメリットデメリットがありますからね。
そこで、どちらかというと「プロに任せたい」という人に、私が是非おすすめしたいサービスを2つ紹介します。
1:ラクスルのオンラインデザインサービス
専用ソフトがなくても、ウェブブラウザ上から入稿に適したデータが手軽につくれるサービスです。
白紙の状態から自由につくることもできますが、特に便利なのが4,000点以上用意されているデザインテンプレート。
たとえばチラシをつくりたい場合、
このようにテンプレートがたくさんあるので、好きなものを選んで文字や画像をあてはめていくだけでOK。
ブログサービスとかと近いイメージの使い方ですね。
このサービス、なんと利用は無料で、かかるのはあくまで印刷費のみなところもポイント高いです。
2:クラウドソーシングサービス
デザインやデータ入稿を個人がプロに手軽に発注できるのがクラウドソーシングサービスです。
とにかく手続きが簡単な上、業者に依頼するよりも安く上がる場合が多いです。
有名どころは「ランサーズ」「クラウドワークス」「ココナラ」など。
例えばランサーズで「名刺・カードデザイナー」を検索すると、
このように、1,500人近くもの発注先候補が見つかります。
また、コンペを開催してデザイン案を募り、一番気に入ったデザインの作成者に依頼することもできます。
募集概要に「印刷入稿まで対応希望」と記載すれば、印刷用データ作成から業者への入稿まで代行してもらうことも可能です。
最後に:印刷の世界は深い…だが入口は恐るるに足らず
今回解説したのは本当に基本的な部分のみで、印刷の世界には他にも特色、色校正、紙、特殊加工、さらに冊子になると綴じや装丁、製本などなど、踏み込む先がまだまだ広がっています。
私も印刷の全てを理解しているわけでは全くなくて、デザイン会社に務めていた頃も印刷工場に見学に行ったりして常に勉強が必要でした。
それでも、最初の入口さえ入ってしまえば、そこから先の理解は速いし、自分でどんどん調べていけます。
今回は、その入口部分を私なりにまとめたつもりです。
印刷データ入稿にチャレンジする初心者の方に、少しでも参考になれば嬉しいです!