フィリピンのワクチン戦略

コロナ禍になって1年半。フィリピン在住邦人が直面するワクチン問題について(私の場合)

こんにちは、フィリピン在住フリーランスのchieです。

世界中が新型コロナウイルスによるパンデミックに見舞われ始めてから、約1年半が経ちました。
パンデミック初期の私のフィリピンでの状況は、以下の過去記事にまとめています。

この1年半で起きた最も大きな変化は、高い有効率のワクチンが開発され、世界中でワクチン接種が進み始めたことです。

ただ、このワクチン接種の戦略は国によってかなり異なります。

そしてこの戦略の違いが、在フィリピン邦人の悩みのタネの1つにもなっています。
今回はそのあたりのことをまとめたいと思います。

※私の場合・私個人の考えであり一般論ではありませんm(_ _)m

1.日本とフィリピンのワクチン戦略の違い

日本人の私にとって、フィリピンのワクチン戦略を理解するには、日本のワクチン戦略と比較するのが一番わかりやすいです。
以下簡単にまとめてみます。
※2021年7月2日調べ(日本とフィリピンで数値の集計日に多少開きがある可能性があります)

確保メーカーと数

日本 合計3億6400万回分
(1億8200万人分)
  • ファイザー1億9400万回分(9700万人分)
  • モデルナ5000万回分(2500万人分)
  • アストラゼネカ1億2000万回分(6000万人分)
フィリピン 合計1729万3420回分
(864万6735人分)
  • シノバック1200万回分(600万人分)
  • アストラゼネカ255万6千回分(127万8千人分)
  • ファイザー246万9千8百70(123万4935人分)
  • モデルナ24万9600回分(12万4800人分)
  • スプートニクV18万0000回分(9千人分)

国内承認

日本 ファイザー・モデルナ・アストラゼネカ
フィリピン ファイザー・モデルナ・アストラゼネカ・シノバック・スプートニクV・J&J・バイオテック

優先順位

日本
  1. 医療従事者
  2. 65歳以上高齢者
  3. 基礎疾患のある人
  4. 12歳以上一般人
フィリピン
  1. 医療従事者
  2. 高齢者
  3. 併存疾患のある人
  4. 特に重要なエッセンシャルワーカー
  5. 貧困層
  6. 教師・ソーシャルワーカー
  7. その他公務員
  8. エッセンシャルワーカー
  9. NHTS-PRに基づくリスクが高い人
  10. 海外フィリピン人労働者
  11. その他労働者
  12. その他全てのフィリピン人

進捗

日本:全人口(1億2311万)のうち1回接種23.8%、2回接種12.6%
フィリピン;全人口(1億1120万)のうち1回接種7.09%、2回接種2.39%

参考:
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/20139/
https://herdimmunity.ph/
https://www.fda.gov.ph/list-of-fda-issued-emergency-use-authorization/
https://doh.gov.ph/vaccines/info-for-specific-groups

2.フィリピンのワクチン戦略の懸念点

日本とフィリピンのワクチン戦略の違いが、そのままフィリピンのワクチン戦略の懸念点になります。

日本のワクチン戦略が現時点で正しいと言えるかどうかは意見が分かれるかもしれませんが、少なくともフィリピンのワクチン戦略の方がかなり見通しが悪いと言えます。

以下ポイントごとに取り上げます。

1.ワクチンの有効率

日本が米国ファイザー製をメインで調達しているのに対し、フィリピンがメインに選択したのは中国シノバック製です。

ファイザー製はmRNAワクチンという、病原体成分の設計図をRNAとして投与するタイプで、今回のパンデミックから初めて実用化された最先端技術のワクチンです。

一方、シノバック製の不活化ワクチンは、感染力をなくしたウイルスの一部を投与するタイプで、インフルエンザ対策でも使われている従来技術のワクチンです。

さて、当然ながら、ワクチン戦略を進めるにあたって最も重要なのはワクチンの有効率。

ファイザー製ワクチンは、開発段階の臨床試験(第2・第3相)で95%の有効率(発症者の割合が95%少ない)が確認されています。
(参考:https://covnavi.jp/category/faq_medical/
さらにワクチン接種が急速に進んだイスラエルでも、120万人対象のデータで94%の有効率(発症者の割合が94%少ない)が報告されています。
(参考:https://www.bbc.com/japanese/56079828

一方、シノバック製ワクチンは、臨床試験第3相での有効率のデータにかなり開きがあり、実際の有効率が非常に掴みづらい状況です。
具体的なデータは以下の通り。

  • トルコ:91.25%
  • インドネシア:65.3%
  • ブラジル:50.4%

(参考:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-55657280

WHOの調査発表でも、シノバック製ワクチンの有効率は51〜84%とされています。
(参考:https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-who-sinovac-idJPKCN2DD4BN

ちなみに、シノバック製と同じ不活化ワクチンであるインフルエンザワクチンは、有効率は30〜60%程度と言われています。
不活化ワクチンとしては、シノバック製の有効率の数値は決して悪くはないのかもしれません。

ただし新型コロナ対策としては、ワクチンの有効率が非常に重要になってきます。
そもそも感染症対策におけるワクチン接種の目的は大きく2つ。

1つは、ワクチンを接種した人の発症や重症化を予防すること。
そしてもう1つは、免疫を持つ人を増やすことで集団免疫を達成することです。

集団免疫とは、人口の一定以上の割合が免疫をもつことで、感染者が出ても人に感染しにくくなり流行が小規模にとどまる状態を指します。
日本では過去に、ポリオ、はしか、天然痘などの感染症でワクチン接種による集団免疫を達成しています。

今世界が新型コロナウイルスのパンデミック終息に向けて目指しているのが、まさにこの集団免疫です。
そして集団免疫の達成には、人口の60~70%の免疫獲得が必要と言われています。

ただしこれはもちろん、ワクチンの有効率が高い場合の試算。
仮に有効率5割のワクチンを人口の7割に投与しても、免疫を獲得できる人は7割に到達しないと予測されるためです。

また、そもそも不活化ワクチンは、増殖が速い新型コロナウイルスにおいては体内で抗体ができにくいとも言われています。

今世界で推し進めているワクチン戦略=集団免疫獲得戦略は、有効率90%以上という驚異的に優秀なmRNAワクチンが生まれたからこそ成り立っていると言えます。
※ただし新型コロナウイルスは変異を繰り返しており、今後変異株に対しては有効率が下がる可能性もあるようです。

というわけで、有効率が低いかもしれないシノバック製ワクチンでは、集団免疫を達成できる見込みはかなり不透明と言わざるを得ません。
これがフィリピンをはじめ、シノバック製を選択した国の最も大きな懸念点だと思います。

そもそもフィリピンはなぜシノバック製をメインに選択したのか?

フィリピン政府の公式な見解は見つけられませんでしたが、おそらく以下あたりが理由ではないかと推測します。

  • 先進国のような調達力(特に資金力)がない
  • 冷凍保管がインフラ・地理両面で困難
  • 中国との外交関係

フィリピンを含め、シノバック製を選択した国のほとんどが発展途上国であることからも、こういった理由がうかがえます。

ちなみに、フィリピンが確保したワクチンのうち、ファイザー・アストラゼネカの2メーカー分はすべてCOVAX(新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組み)からの寄付で、購入分のほとんどはシノバック製です。
(参考:https://herdimmunity.ph/

2.ワクチンの確保量

仮にシノバック製ワクチンの有効率が低くなかったとしても、そもそもフィリピンの場合、現時点で人口に対するワクチンの確保量が全く足りていないことも大きな懸念点です。

日本の確保量 1億8200万人分(人口1億2311万)
フィリピンの確保量 864万6735人分(人口1億1120万)

3.接種のスピード

そもそも数が足りていないため当然かもしれませんが、接種のスピードも芳しくありません。
人口が同程度の日本で現在12.6%が2回接種完了、一方フィリピンは2.39%です。

スピードが遅い理由としては、各地方自治体のマネジメントやインフラの弱さが考えられます。
また、ワクチン接種希望者の少なさも影響しているかもしれません。

フィリピンの調査機関「Octa Research」の調査では、ワクチン接種を希望する人は19%にとどまり、46%が希望しないと答えたという結果が出ました。
(参考:https://www.rappler.com/nation/octa-research-filipinos-covid-19-vaccine-willingness-february-2021

ちなみに希望しない理由は「安全かどうかわからない」73%、「ワクチンが有効かどうかわからない」29%、「コロナ対策にワクチンは必要ない」9%。
さらにファイザー製ワクチンを信頼する人の割合が41%に対し、シノバック製を信頼する人の割合は15%以下とのこと。

やはりフィリピンの人たちにとっても、どのメーカーのワクチンを接種できるかは大きな懸念材料になっているようです。

また、フィリピンでは2016年にフランス・サノフィ社のデング熱ワクチンを接種した子ども複数が死亡し、大きな混乱を生みました。
その経験が今のワクチン不信につながっている面もあるのかもしれません。

3.フィリピン在住邦人が迫られる選択と私の考え

以上が、フィリピンのワクチン戦略のざっくりとした現状です。
そのうえで、在フィリピン邦人である私が今迫られている選択があります。

それは、ワクチンをフィリピンで接種するか、それとも日本に帰国して接種するか。

まず、私は集団免疫に貢献するうえでもワクチンを1日も早く接種したいと考えています。
今後接種した人から国際間移動が解禁されていく流れを見越しても、「接種しない」という選択肢はおそらくないと予想しています。

ここまで書いてきた通り、ワクチンは有効率が超重要。
なので、できれば日本に帰国してファイザーやモデルナを接種したいというのが本心です。

基礎疾患のない30代の私が、日本でいつ頃接種できるのかまだわかりません。
ところがつい先日の6月25日、外務省から海外在留邦人向けワクチン接種事業の実施案内が届きました。

この案内によると、2021年8月1日から2022年1月上旬まで、日本に住民票のない在外邦人は成田空港または羽田空港の入国後エリアでファイザー製ワクチンを無料接種できるとのこと。
できるだけ有効率の高いワクチンを接種したい私としては、非常にありがたい話です。

ネックは、ファイザー製は3週間置いて2回接種が必要なため、空港近辺で3週間強の滞在(うち2週間は自己隔離)が必要なこと。

往復航空券代+滞在費用でなかなかの出費になりますが、背に腹は代えられません。
この条件ならぜひ接種したいところです。

ですが、最も大きな障壁はフィリピン側にあります。
フィリピンでは現在コロナ禍により、外国人の観光ビザによる入国を禁止しています。

フィリピンは観光ビザだけで最長3年滞在できてしまう奇特な国。
私含め、たくさんの外国人が今現在も観光ビザでフィリピンに滞在しています。

このため、ワクチン接種で帰国してしまうと、今度はフィリピンに戻れなくなってしまいます

この事態を打開するには、フィリピン政府にワクチンパスポートなどでの入国を認めてもらうしかありません。
しかしこれが一体いつになるのかがわからない…それが悩ましいポイントです。

じゃあこのまま様子見でいいのかというと、それもまた判断が難しいところです。
実は今、私の住んでいるドゥマゲテでは感染者が急増し、フィリピン国内でも最もパンデミックが深刻な地域の一つになっています。

現在は上から2番目に厳しいロックダウン措置(MECQ)がとられており、それでもまだ毎日数十人規模の新規感染者が報告されています。
人口13万人の田舎町とは思えない恐ろしい数値です。

ここまで流行のど真ん中にいるとなると、もはや有効率50%のワクチンでも1日も早く打つべきではないか、とも思うわけです。
集団免疫のためというより、最悪の事態(自分がかかって重症化したり人に移してその人が重症化する)になる確率を少しでも減らすため、という意味合いになります。

一般的に不活化ワクチンは副反応が少なく、私はその点ではあまり不安はありません。
ただ、「効果がよくわからないワクチンを体内に入れる」ということに、なんだかすごく抵抗があるんです。。

まぁそもそも、フィリピンでワクチン接種を希望しても、自分にまで順番がまわってくるかどうかもまだわからないですが…
(一応接種の希望登録はできる状態)

これ、おそらく今日本にいる方に話しても全く伝わらない不安ではないかと思います。
日本をはじめ先進国では、そもそもファイザーかシノバックかなんて選択は迫られないわけですから。
しかし、今現在フィリピン含む途上国にいる在外邦人の中には、同じ悩みを持つ人が結構いるんじゃないかと思います。

これを書いている今現在も、まだ決断できていません。
第一希望は、フィリピンがワクチンパスポートを実施したらすぐに一時帰国して接種すること。
それが叶わなければ、本帰国するかフィリピンで接種するかの2択になります。

「ワクチン接種しないままフィリピンでパンデミックが終息する」という超ラッキーな結末もありうるかもですが、私は可能性は低いと考えています。

最後に

これまでも何度か書いてきましたが、やはりパンデミック下で途上国に住むというのは非常にリスクの高いことなんだなと改めて思い知りました。

現時点でパンデミックを終息させる方法が集団免疫達成しかない以上、有効率の高いワクチンを調達できず接種も進まない国ほど、終息まで時間がかかることになります。
先進国と途上国とで、その差がこれから大きく現れてくるのではないかと思います。

私はそのことは理解していたつもりでしたが、自分の住む地域でここまで流行してしまうことや、ワクチンについてこういう選択を迫られることは予想していませんでした。。

とはいえ、悲観しても仕方ないので、冷静に情報を集めつつ、都度適切な対処ができるよう努力しようと思います。
どんな方がこれを読んでくださっているかわかりませんが、途上国でワクチン接種に悩む在外邦人のみなさん、一人じゃありません!ともに前向きにいましょう!

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